1.TRIZとは?
TRIZとは、トゥリーズと読み、目の前の課題に対し基本原理をあてはめ、解決策・発明的思考と結び付けるためのビジネスフレームワークです。
TRIZは、ゲンリック・アルトシューラーが提唱した技術開発における発明を体系化したビジフレであり、解決策や発明的思考をあらかじめ基本原理としてカテゴライズしてあります。従って、より実践的なビジフレになっています。
ゲンリック・アルトシュラーは、特許に関わる仕事に従事していたため、多くの革新的な技術と触れる機会がありました。その経験を通じて、新たな技術を発明するときに、一定の原理原則があること導き出しました。それが、第2次世界大戦後になりますので古くに研究された理論となります。
そして、250万件にもおよぶ特許を解析することで、特別な能力を持たない人でも発明的思考により目の前の課題を解決できるメソッドを構築しました。
因みに、TRIZとはロシア語の英字表記の頭字語であり、日本語では発明的問題解決理論となり、英語ではTIPS(Theory of Inventive Problem Solving)となります。
それでは、TRIZの進め方について、もう少し詳細にご説明します。
1.TRIZの実践プロセスの概略図
TRIZの実践プロセスの概略図を以下示します。
概略図にも記載されているように、目の前の課題に対して、直接的に解決策を見出すことはしません。
その実践プロセスは以下の手順で行います。
- 現実の課題の抽象化
- 抽象化した課題の解析
- 抽象化した課題に対する解決策を発案
- 発案した解決策を現実の解決策として具体化
2.39の技術的特性パラメータ
次いで、先ほどの概略図に示された課題を解析するための考え方についてご説明します。
この課題解析の際に、用いるのが39の技術特性パラメータと名付けられる考え方です。
基本的には、どのような課題でも下記の39の技術特性パラメータに分類(解析)されます。
要するに、この39の技術特性パラメータは物体やシステムが抱える基本的な課題となります。
例えば、その製品が重量が課題であれば「2.静止物体の重量」に分類されます。
しかし、現実の課題はこのようにシンプルではありません。従って、後述する「4.40の発明原理」が解決するうえで重要な発明的思考になります。
【39の技術的特性パラメータの一覧】
1.運動物体の重量 | 2.静止物体の重量 | 3.運動物体の長さ | 4.静止物体の長さ |
5.運動物体の面積 | 6.静止物体の面積 | 7.運動物体の体積 | 8.静止物体の体積 |
9.速度 | 10.力 | 11.応力・圧力 | 12.形状 |
13.物体の安定性 | 14.強度 | 15.運動物体の動作 時間 | 16.静止物体の動作 時間 |
17.温度 | 18.照度・輝度 | 19.運動物体の消費 エネルギー | 20.静止物体の消費 エネルギー |
21.動力 | 22.エネルギーの損失 | 23.物質の損失 | 24.情報の損失 |
25.時間の損失 | 26.物質の量 | 27.信頼性 | 28.測定精度 |
29.製造精度 | 30.物体が受ける有害 要因 | 31.物体が起こす有害 要因 | 32.製造の容易性 |
33.操作の容易性 | 34.保守の容易性 | 35.適応性 | 36.装置の複雑性 |
37.コントロールの 困難性 | 38.自動化のレベル | 39.生産性 | *** |
3.技術的矛盾マトリクス
先述しました「39の技術特性パラメータ」は、物体やシステムが抱える基本的課題の一覧としてご説明しました。
しかし、課題となっている技術特性パラメータを改善しようとした際、別の技術特性パラメータが悪化することがあります。そのことを示したのが下図の技術的矛盾マトリクスになります。
下図は、利益相反と考えられる技術特性パラメータのトレードオフについて示したマトリックス図になっています。記載の番号は、先の技術特性パラメータに示した番号とリンクしており、最上段の横カラムは技術特性パラーメータが悪化するケース、左の縦カラムは改善したい技術特性パラメータを示しています。
このマトリックス図のどのセルに該当するかを分類することが課題の解析になります。
4.40の発明原理
次いで、解析された課題を解決するために必要な40の発明原理について説明します。
40の発明原理とは、課題解決へと導いてくれる40種類の発明的思考法であり、TRIZの中核を成す思想です。
その40の発明原理の一覧図を以下に示します。
多くの発明原理があるため、全てを覚えることは難しいと思いますので、このような発明原理が存在するといことだけ覚えて頂ければと思います。
続いて、40の発明原理の各々項目が示す解決策となる発明的思考について説明いたします。
- 分割の原理
・物体/システムを個々の部分に分割する。
・物体/システムを容易に分解できるようにする。
・物体/システムの分割の度合いを強める。 - 分離の原理
・物体/システムの必要な部分を抽出し、その他の部分を分離する。 - 局所性質の原理
・物体/システムの均一的な構成を不均何一なものに変更する。
・物体/システムの特定部位に適した改良をする。
・物体/システムの各部分が、潜在的な機能を発揮できるようにする。 - 非対称性の原理
・物体/システムの対称的な状態を非対称に変更する。
・さらに、非対称の度合いを強める。 - 組合わせの原理
・複数の物体/システムを各々組み合わせる。
・加えて、機能性や時間的因子についても同一性の組み合わせを行う。 - 汎用性の原理
・物体/システムに複数の機能を持たせる。 - 入れ子構造の原理
・物体/システムを別々の物体の中に入れ、その物体をまた別の物体の中に入れる。 - つりあいの原理
・物体/システムを物理的な性質を利用して重さを制御する。
・気体や液体の科学的な性質を使用して重さを制御する。 - 予備応力の原理
・目的の動作を実施する前に、予め、反対の作用を蓄えておく。
・有害応力に対する手段として事前に反対の作用を蓄えておく。 - 先取作用の原理
・目的の動作を実施する前に、事前に作用を施しておく。 - 事前保護の原理
・物体/システムの信頼性を向上させるために、事前に策を講じておく。 - 等位性の原理
・作業条件に合わせて状態が変化し、アイテムをの重力を利用して位置状態を変化させない、又は適した位置になるようにする。 - 逆転の原理
・物体/システムに本来の目的とは、逆の機能を加える。 - 曲面の原理
・直線状のアイテム及びその構成要素を曲線状のものとする。
・平坦なアイテム及びその構成要素の表面を球面にする。
・ローラ、球、螺旋、ドームの形状に変更する。
・直線運動を回転運動に変更し、遠心力を利用する。 - ダイナミックの原理
・物体/システムの特性、外部環境、プロセスを変更して最適にする。
・物体/システムが不動あるいは不変である場合は、可動や可変にする。 - アバウトの原理
・物体/システムを100%の効果で満たすのではなく、大小または多少のブレを持たせる。 - 他次元転換の原理
・物体/システムを三次元的な空間を活用する。
・物体/システムを単層でなく多層にする。
・物体/システムを上下、左右、縦横を入れ替える。 - 機械的振動の原理
・物体を振動させる。
・物体を超音波になる程度まで振動させる。
・圧電振動を利用する。
・超音波振動と電磁界振動を組み合わせて使用する。 - 周期的作用の原理
・物体/システムを周期的又は脈動的動作へ変更する。
・さらに、周期の程度や頻度を変更する。 - 有効連続性の原理
・物体/システムを連続的な物体やプロセスに変更する。 - 超高速作業の原理
・破壊的、有害、あるいは危険な作業などのプロセスや段階を高速で実行する。 - 益害変換の原理
・有害な要因や環境を利用して、有益な効果へ変換する。
・有害要因に他の有害要因を加えることで相殺する。 - フィードバックの原理
・起こった事象に対するフィードバックを受けとることで別のシステムが作用し、プロセスを改善する。 - 仲介の原理
・物体/システムに仲介物を利用することで直接的な改善機能を得る。 - セルフサービスの原理
・物体/システムから得れる副産物を利用して、好影響を獲得する。
・物体/システムから得られる廃棄資源、廃棄エネルギーを活用する。 - 模倣代替の原理
・物体/システムが高価で脆い場合、安価な模倣品を活用する。
・物体/システムの保存性が低い場合、模倣品を用いることで保存する。 - 安価低耐久性の原理
・物体/システムに高価になる場合、耐久性と引き換えに安価な物体/システムに置き換える。 - 機械代替の原理
・機械的手段を音響、味覚、臭覚などの知覚手段に置き換える。
・電界、磁界、電磁界を物体/システムに利用する。 - 流体利用の原理
・物体又はその構成要素に液体や気体の流体を利用し、膨張、液体充填、エアクッションなどの機能を活用する。 - 薄膜利用の原理
・柔軟な殻や薄膜を利用して、物体/システムを外部環境から分離、保護する。 - 多孔質利用の原理
・物体を多孔質または構成要素に多孔質のモノを利用することで、有用な機能を向上させる。 - 変色利用の原理
・物体/システムに外部環境による変色効果を利用する。 - 均質性の原理
・物体/システムを同じ材料または同じ特性を持つ構成要素で作る。 - 排除再生の原理
・物体/システムの持つ機能を完了したあと、部分的に廃棄、排出することで再生する。 - パラメータの原理
・物体の気体、液体、固体といった物質の三態を変化させる。
・物質の三態における物理的、化学的変化を与える。 - 移相変相の原理
・体積の変化、熱交換など、相転移の間に発生する現象を利用する。 - 熱膨張の原理
・物体の構成要素の熱膨張や熱収縮を利用する。 - 酸化活性作用の原理
・酸化物、過酸化物などの酸素を利用する物体/システムにする。 - 不活性利用の原理
・物体/システムを不活性環境や不活性物質を利用する。 - 複合材料の原理
・物体/システムの構成要素に複合材料を用いる。
2.TRIZの矛盾マトリクスを用いた活用例
それでは、TRIZの活用例についてお示しいたします。
例えば、容器の強度が弱いためより強固に改善したいとケースで考えます。
このとき、技術特性パラメータ14(強度)を改善したいことになります。
そこで、単純に強い材質に変更すれば良いかというとそうではありません。
なぜなら、このとき同時に技術特性パラメータ1(重量)が悪化するパラメータ(デメリット)として浮上してくる可能性があるからです。
つまり、技術特性パラメータ14(強度)と技術特性パラメータ1(重量)はトレードオフ(利益相反)の関係になります。
この状況を示したのが下図(※技術的矛盾マトリクスの拡大図)になります。
全容は最後にご紹介する書籍でご確認頂けます。
ここで上図の活用することになりますが、改善するパラメータ14(強度)と悪化するパラメータ1(重量)がマトリックス上で交差するセルがあります。
このセルに、このケースにおける問題点を打開するための発明原理が示されています。
そして、このときの発明原理の番号は、1、8、15、40です。
つまり、40の発明原理の「分割」、「つりあい」、「ダイナミック」、「複合材料」になりますので、この発明的思考を活用することで解決策を見出すことができます。
この様に、技術な改善をするために必要な発想コンセプトを示してくれるのが、このTRIZ(トゥリーズ)というビジフレになります。
ただし、ここで与えられるのは発明コンセプトであって、「答えとなる発明」ではありません。この時、重要なのはいかに課題を的確に分析できるかです。ここでの抽象化が間違ってしまうと、間違った発明原理にミスリードさせることがあるので、注意が必要となります。
3.TRIZのまとめ
以上が、TRIZ(トゥリーズ)の説明になります。
本記事では、TRIZについて紹介してきましたが、少し理解するのに慣れが必要なビジフレだと考えます。また、TRIZに関しては他にも様々なプロセスや思考法が存在しています。
従いまして、TRIZを活用するには、さらに深く学ぶ必要があります。
下記に、TRIZを補完するための思考法を補足として記載します。
【補足①】物質-場分析(Substance-Field Analysis)
特定の現象やプロセスにおいて、不利益をもたらす、又は、機能を十分に発揮できないなどの課題をビジュアル的に理解、解析するためのモデル図です。通常は、三角モデルで用いられます。
【補足②】9画面法
思考の交通整理を行ってくれるメソッドです。中心となるアイテムから、時間的または空間的に前後するマトリックスを考えることで、思考の補助線になります。
『TRIZ関連書籍』
「TRIZの理論とその展開―システマティック・イノベーション」は、TRIZに関する理論を詳細に解説している書籍で、より深くTRIZを学びたい方に適した書籍です。さらに、本ブログでは紹介しきれなかった、SLP、イフェクツ、ARIZ、76の標準解などの思考法も紹介されているTRIZ書籍の決定版だと思います。
「ものづくり技術アドバンスト 図解これで使えるTRIZ/USIT」は、TRIZについて読みやすく構成された書籍です。名前の通り、多くの図解を用いて解説されていて、初めに読む書籍としてオススメします。9画面法について解説されています。
「TRIZで開発アイデアを10倍に増やす! 製品開発の問題解決アイデア出しバイブル」は、TRIZの思考法である40の発明原理で解決した実例紹介が豊富にされていて、実例から学ぶことができるで、すごく理解しやすいです。また、40の発明原理とその製品の紹介ページを読むだけで、脳が刺激されて自身の発想のキッカケにもなると思います。