本サイトでは【KT法/Kepner-Tregoe Method】をこれから学びたい方や、知っているけど「うまくいかない」「具体的なやり方がわかない」方々に向けて、わかりやすく、事例も交えて解説しております。
最後には、思考のテンプレートになるような図解も示しておりますので、全体像をイメージしたい方にオススメです。
是非、普段のビジネスやマネジメントにお役立てください。
1. KT法/Kepner-Tregoe Methodとは?
KT法とは、Kepner-Tregoe Method(ケプナー・トリゴーメソッド)とも呼ばれ、社会心理学者のチャールズ・ケプナー氏と社会学者のベンジャミン・トリゴー氏の共著書である「ラショナル・マネジャー(Rational Manager)」で紹介されたメソッドであり、その両者の頭文字から命名されたビジネスフレームワークです。
KT法は、合理的(Rational)に分析や判断を行うプロセスを体系化したものであり、決断力を獲得できるフレームワークで、50年以上前に提唱されたメソッドですが、今も多くの企業の研修で用いられています。
その意思決定プロセスは下記の4つの思考パターンに基づいて行われます。
- 状況把握と明確化・・・Situation Appraisal(現状分析):SA
- 原因と結果・・・Problem Analysis(課題分析):PA
- 選択する・・・Decision Analysis(決定分析):DA
- 将来の予測・・・Potential Problem Analysis(潜在的問題分析):PPA
2. KT法における「SA」「PA」「DA」「PPA」について
それでは、4つの思考パターン(やり方)について詳しく説明いたします。
1.Situation Appraisal(現状把握):SA
思考パターンの第1のプロセス(状況把握と明確化)は現状把握となります。上図を見て頂くと、一目瞭然ですが、現状把握はその他のプロセスとは、異なる位置づけとなっています。
このプロセスは、「何が起こっているのか」つまり直面した状況や問題を細分化して整理し、適切に把握することです。そのうえで、細分化された課題に対して優先順位を付けます。
通常、何か状況変化や問題が起こったときには、そこから様々な情報が表面化してきます。その中には、必要な情報もあれば、不必要な情報もあります。
従って、何かアクションを起こす前に、得られた情報の「交通整理」を行う必要があります。そして、取り組むべき課題の優先順位をつける必要があります。
その後、課題分析又は決定分析、潜在的問題分析のいずれかに移行し、実際に解決策や対応策を実施することになります。
つまり、以下の4つのステップを順を追って進めて行きます。
- 問題を認識する
- 問題を管理可能な部分に分離する
- 優先順位を決定する
- 3つの分析プロセスに適切に移行する
「3つの分析プロセスに適切に移行する」ことが当該プロセスの重要なステップとなります。上図を見て頂くとわかると思いますが、他の3つのプロセスの手前に本プロセスが位置します。
2.Problem Analysis(課題分析):PA
思考パターンの第2のプロセス(原因と結果)は、課題分析になります。
このプロセスは、現状起こっている課題に対して、その状況を正確に突き止めて分析・解析することで、解決策を見出すことです。
何かしらの課題や問題が起こった際に、何が問題かを明確にします。
これを「差異ステートメント」と呼びます。
そして、実際に問題となっている状況を「コト」が起きる前の状態と比較して、その差異や変化、異常などを事細かに調査し明細化します。
その明細化された差異や変化、異常が課題の要因の可能性があるため、各々を適切に解析することで真の原因を突き止めます。
次いで、突き止めた原因の「裏づけ」をとるために、問題を引き起こした変化を逆にたどり、課題に導かれるかを確認します。
その結果、課題に対する原因を突き止めることができ、そのうえで解決策を講じることができます。
つまり、以下の4つのステップを順を追って進めて行きます。
- 何が問題なのかを明確にする(差異ステートメント)
- 差異や変化、異常を明細化する
- 明細化した差異や変化、異常を要因と照合する
- 最有力な原因の裏づけをとる
原因が明らかになった後は、本質的な裏づけを取り、「グレー」を「クロ」と確定させます。
3.Decision Analysis(決定分析):DA
思考パターンの第3のプロセス(選択する)は、決定分析になります。
初めに、下記の4つの要素が決定分析において重要項目になります。
- 何を決めるのかを明確にする。(決定ステートメント)
- 決定の為の目標[ 絶対目標(MUST)と希望目標(WANT)]
- 候補となる案の数
- マイナス影響の予測
何を決めるのかを明確にするとは、例えば、新たな人事評価システムを構築する際に、なぜ、今回新たな人事評価システムを導入する必要があるのかを理解する必要があります。そうでなければ、単に年功序列制度に基づいたポジションの区分を決めて終わることになります。
しかし、本当に改善したいことは、年功序列制度から実力主義制度への抜本的な制度変更かもしれません。よって、決めることは実力主義制度の導入の可否検討になります。
従って、「決定ステートメント」は明確にしておく必要があります。
続いて、決定の為の目標についてですが、その目標が絶対に譲れないのであればMUST項目になり、必須項目でない目標であればWANT項目になります。
しかし、必須でない項目の中にも重要度がありますので、WANT項目については、各々の目標にウェイトを設定する必要があります。この事につきましては、次項目の『KT法の活用例』で説明します。
候補となる案の数は多い方が好ましいです。それは評価項目の漏れを無くすことで、決定事項を後から覆される、いわゆる「ちゃぶ台がえし」を防ぐためです。
最後の決定事項に対するマイナス影響の予測では、現状の事実に基づいて決定された項目を将来起こる可能性のある悪影響を鑑みて評価することです。そうして、最適な選択を判断します。
4.Potential Problem Analysis(潜在的問題分析):PPA
思考パターンの第4のプロセス(将来の予測)は、潜在的問題分析になります。
このプロセスは、将来起こりうるトラブルを未然に防ぐための対策、及び、トラブルが起こってしまった後に取るべき対策を決めておくことになります。
あくまでも、予測対応となり、必ず起こるとは限りませんが、その可能性を低減するための施策であり、「転ばぬ先の杖」ということになります。
また、対策を講じたからといって必ず起こらないとも限りません。もしかしたら、対策が不十分である可能性もあるので、回避できないことも考慮した二次対策も考えておく必要があります。
つまり、潜在的問題分析で考えるべき項目としては以下の4つになります。
- カバーすべきリスクの範囲を明確にする
- 予想される具体的な潜在的問題を抽出する
- 潜在的問題に対する予防対策を講じる
- 想定外のリスクが潜んでいることも理解する
潜在的問題の対策において、可能性のあるリスクを想定して対応するため、事実とは異なり、不確定要素を多く含んでいます。
このことから、現段階では具体的に「何か」はわからないが、想定外のリスクが潜ひそんでいることも理解しておく必要があります。そうすることで、予期せぬリスクに遭遇しても大きなパニックを起こさずに対応することができます。
3. KT法/ケプナー・トリゴーメソッドの活用例
続いて、KT法はどのように活用するかを示します。
以下に、「課題分析:PA」、「決定分析:DA」、「潜在的問題分析:PPA」の3つの分析方法について事例を用いて説明致します。そのあと、それら事例に基づく「状況把握:SA」の考え方について説明します。
1.Problem Analysis(課題分析):PA
例題として、今回は、あるタピオカ店で起こった1号機の鍋で茹でたタピオカだけ、芯が残る課題に対するアプローチを示しました。
また、課題分析を進めるにあたり、下記の4つのステップに従い実施しています。
- 何が問題なのかを明確にする(差異ステートメント)
- 異変、異常を明細化する
- 明細化した異変、異常を要因と照合する
- 最有力な原因の裏づけをとる
分析を行うために作成した表を下に示します。
ここで、差異が見られるのは下記です。
- 1号機の鍋のみ茹で後に芯が残る
- 1号機の鍋は2日前に似たような鍋に買い換えた
- タピオカ原料のメーカーを変えた
これらのことから、1号機のみに起こっている事象なので1号機の差異に注力します。
つまり、タピオカの原料変更はその他の鍋にも共通しており、その他の鍋では異常が見られていないので原料変更は、本件との関連性は低いと結論づけることが出来ます。
よって、1号機の鍋を買い換えたことが要因ということになります。
続いて、ステップ4の裏づけになります。
新たに購入した鍋を調査した結果、形は似ていたが、金属部の材質や層構造、厚みが異なっていました。そして、この鍋は以前の鍋と比べて放熱速度が速いことが判明し、「タピオカの茹で工程」での60分放置後の温度が他の鍋に比べて低いことが確認されました。
結論としては、鍋を買い換えたことによる、調理工程の保管温度の差異が原因という事になります。
2.Decision Analysis(決定分析):DA
例題として、今回は、あるタピオカ店が出店場所を決めることを決定ステートメントとしました。その際、希望事項を抽出し、その要件に対してどの程度満たしているかを分析し、判定することで候補地の中から適切な場所を決めます。
その際、下表のような決定分析表(DA表)を作成します。
初めにMUST要件について判定します。本例題において、絶対に譲れないMUST要件は以下の3つです。
- 家賃が15万円以下であること
- 駅から徒歩3分以内であること
- 半径500m以内に競合店が無いこと
つまり、上記の3要件を1つでも満たさない候補地は、その時点で候補地から省かれます。
本例題においては、候補地Cが「家賃16万円」ということで候補地から省かれます。
続いて、WANT要件について判定します。WANT要件は以下の3つで、さらにウェイトも以下のように設定しました。
- 若者の人口が多ければいいな・・・ウェイト:10
- 治安が良ければいいな・・・ウェイト:8
- 近くに公園があればいいな・・・ウェイト:6
次いで、各々候補地に対して各要件を照らし合わせていきます。この時、各要件に対して最大評価値は10点をつけ、残りは相対評価値をつけます。その評価値とウェイトを掛け合わせた値をその要件における候補地のスコアとします。
そのあと、各スコアを合計した値で候補地を判断します。
本例題においては、上図表の通り候補地Bが適切な出店場所となりました。
最終段階として、候補地Bの将来的なリスクを考えてみて、問題ないことを確信できたら決定となります。
「DA表」の作成は、社内プレゼンの説得資料としての活用や合意形成に役立つのでおすすめです。
※要件の抽出や重みづけなどのトレーニングには、SWOTがオススメです。
3.Potential Problem Analysis(潜在的問題分析):PPA
潜在的問題分析を行う上で必要不可決な質問があります。
「どのようなリスクが潜んでいるか?」「それに対して、何ができるか?」
そして、潜在的問題分析を行うための予測力は、これまでの経験に大きく依存していると私は考えています。
ジェームス・ウェブ・ヤング氏が示した、「新たなアイデアとは既存のアイデアの組み合わせ」のように、予測の方法もそれに近いものだと考えます。
従って、予測スキルだけは、メソッドを学んですぐに実践できるわけではありません。
より精度の高い予測をするためには、多くの経験を積んでおく必要があります。経験とは実体験だけではなく、書籍などを通して経験する疑似体験も含みます。
それでは、本項目の例題ですが、タピオカ店(屋内店舗型)がイベントを実施する際の潜在的問題分析を行いました。それを以下に示します。
次いで、イベントに向けて予防対策の措置を講じるのみです。
予測不可能なリスクにおいては、何が起こるかわからないリスクなので、正直なところ完全な予測は不可能です。
しかし、想定外のことが起こって当然という心構えがあれば、ある程度のことは冷静に対応できます。
※予測対応能力を伸ばすトレーニングには、OODAがオススメです。
4.Situation Appraisal(現状把握):SA
最後に現状把握についてです。説明が前後してしまいますが、この現状把握の項目では先述の3つの分析への移行のステップになります。本項目ではその考え方について説明いたします。
異変が発生した後、初めに現状把握を行い、そのあと以下のように判断します。
■原因がわからない問題・差異が見られた状況のときには、
⇨ 課題分析(PA)
■何か基準や処置・方法を決めないと進めることができない状況のときは、
⇨ 決定分析(DA)
■課題分析や決定分析において、予測は常に必要な状況なので、
⇨ 潜在的問題分析(PPA)
また、通常発生する問題は、3つの分析が各々重なって発生します。
もちろん、項目を細かく分離することで、ミクロでは独立して考えることが出来ますが、実際に対面する問題は、課題・決定・潜在的問題が複雑に絡みあっています。
従いまして、目の前の異変をどれか1つの項目に当てはめるのではなく、マクロの視点で総合的に判断することを意識する方が好ましいです。
※全体的な状況判断のトレーニングには、PDCAがオススメです。
4. KT法/ケプナー・トリゴーメソッドのまとめ【図解】
上記が、KT法/ケプナー・トリゴーメソッドの図解になります。
本ビジフレは、実際には無意識のうちに実施している所もありますが、それを体系立てて形にしたことが画期的であり、習得すれば思考フレームとして、誰でも活用できるようになります。
もちろん、「課題分析」や「決定分析」、「潜在的問題分析」を上手く活用するには経験が必要となりますが、習得できれば、様々な状況下で活用できるユーティリティスキルになります。
特に、決定分析:DAの習得は、決断の精度とスピードの向上につながる事から、判断機会の多いマネジメント職の方にお勧めです。